2004年記

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「『憲法を変えて戦争に行こう』という世の中にしないための18人の発言」という冊子を送っていただいた。9月のドイツ、オーストリアの旅のあいだに79歳の誕生日を迎えられたその方は、年齢を感じさせない足どりで、行程中も意欲的に見学しておられた。その姿勢・視点に私は学ぶところがあったと思っている。

 

「戦争中軍国少年であった私は、それから脱却するのに一定の努力が必要でした。・・・・私のような人間は、今の日本の現実に『ファシズムの再来』という危機感を持っておりますので・・・」添えられていた手紙にこう書かれてあった。

 

平和な日本にあっても、こういった確かな危機感を感じている人が存在する。こういう危機感を正直身近に感じた事のなかった私はけっこう驚いた。これを「平和ぼけ」というのかもしれない。

 

実は今の日本は水面下で危険な変革が着々と進行していて、若輩の私には見えないが人生経験を経たこの方にはそれがはっきり見えているのかもしれない。

 

送っていただいた冊子にはいろいろな人が意見を寄せている。私が印象に残ったひとつは美輪明宏氏の言葉。「(憲法九条を)アメリカが作ったというのはありがたいことです。アメリカは自分達が作った憲法だから、日本に戦争をけしかけてくるわけには行かない。自縄自縛なのです。」

 

アメリカ史の専門家猿谷要氏は、1945821歳。北海道で練習機の教官をしていた。「人類史上最大最高の教訓としての憲法第九条の精神を訴えずにはいられないのです」と病床からメッセージを寄せている。

 

寄稿している方々の年齢は様々だが、今の日本にしっかりと危機感を持っている。少なくとも私が思っている以上に。そして「憲法9条を変えるな」と言っている。私はこれだけ海外を旅してはいても、実は日本の現実の何をも分かっていないのではないか?

 

また、先日録画しておいたブラジル移民についてのドラマ「ハルとナツ」5回分を見た。

この姉妹の年齢は2004年に78歳と80歳である。

フィクションではあっても、この姉妹のたどってきたような人生は確かにあった。

 

事情は様々でも外国で辛い人生を経験してきた人たちは、かつて日本という国家が彼らに強いたような歴史は二度と繰り返されてはならないと思っている。 個人個人の人生に悔いはなくとも、きっとそう思っているに違いない。

 

「戦後60年」という事は、その歴史的事実を自分自身の経験として語ることの出来る年代というのは現在70歳代後半という事である。「ハルとナツ」のようなドラマを「手触りで分かる事」として見られる最後の世代だ。

あるいは戦前に憲法九条が存在しなかった時代を実感している世代である。二つの時代を見た経験から意見を述べられる最後の人達だという事だ。

 

私は今、そういった年代から直接話を聞ける最後のチャンスという時代に生きている。いただいた79歳の方からの手紙は、すくなくとも私自身が「時代のひとかけら」を継承するのに力を貸してくれた。それは、どんな本に書かれている活字よりも説得力をもって理解させてくれた。

 

※私自身の成長は、こうして真剣に何かを話そうとしてくれる人によって促されてきたように思う。年齢だけが時代を語るものではないが、いつか自分もまたこうやって誰かに真剣に手紙を送る日がくるのかもしれない。